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三鷹の弁護士による自筆証書の遺言には日付がないが封筒に日付の記載がある場合の解説
【事案】
自筆証書の遺言がみつかりました。
遺言書には、日付はありません。
ただ、封筒にはありました。
この遺言は有効でしょうか。
【解説】
1 封筒が封印されていた場合には有効になる可能性が高く,一方,封印がなされていなかった場合には無効になる可能性が高いです。
検認前に封筒をあけないように注意が必要です。
2 まず,遺言書上には日付の記載はないが,封筒には日付の記載があった,ただし,封筒の封印はなされていなかったという,事案の裁判例をみていきます(岐阜家裁昭和55年2月14日)。
結論としては,封印のない封筒にのみ日付の記載がある場合の遺言は無効と判断されました。
「日付の自書なるものは、数個の遺言の優劣の判定や遺言者の遺言能力の判定のために必要な遺言成立時期の確定に資するものであるから、日付の偽造、すりかえなどの防止の点を考慮すると、日付の記載は遺言本文と一体をなすことが客観的に明らかな状態のものであることが必要と考えられるから、本来は遺言書本体に遺言全文や自書、押印と共に存すべきものと解される。
もつとも、遺言の全文、自書、押印の存する書面に日付の記載がなく、それを納めた封筒に日付の記載がある場合であつても、その封筒が押印に用いられた印章をもつて封印されている場合……のように遺言本文と日付とが一体をなすことを客観的に担保すべきものが存するときは、日付の自書があるものと解することができよう。
しかしながら、本件のように日付のない遺言書が開封のまま日付のある封筒に納められただけでは遺言書の出し入れ、封筒の差換えなどが随意となり、したがつて日付の変更も自由となるので、民法九六八条二項も無に帰し、かかる状態の日付の自書をもつて遺言成立時期を確定するのは危険なものと思われ、日付の自書を要求する民法九六八条一項の趣旨にも反するものと解される。
そうすると封印されない封筒裏面にのみ日付の記載があり、遺言の全文、署名、押印のある遺言書本体に日付の記載のない本件遺言は日付の自書を欠くものとして無効なものと解される」
3 次に,遺言書上には日付の記載はないものの,封印されていた封筒に日付の記載があったという時間をみていきます。(東京高裁昭和56年9月16日)。
結論としては,封がなされている封筒(日付あり)に入った遺言を,遺言検認の場で開封した遺言の場合は有効と判断されました。
「遺言状と題する書面が三葉に分かれ、番号が付されていること、右書面が検認に際しては、封筒に入れられ該封筒に封をしたまま提出されたこと、その封筒の表面には「遺言状」の記載、裏面には「昭和五二年四月二日」及び亡徳造の住所氏名の各記載がいずれも毛筆によつてされており、封じ目には毛筆で〆の字が記載されている」
「本件遺言状三葉及び封筒は亡徳造の遺言書としてすべて一体をなすものと認めるべきであり、右封筒上に亡徳造によつて「昭和五二年四月二日」と日附が自書されているのであるから、本件遺言には、自筆証書遺言の方式として要求される日附の自書があるものというべきである。」
4 裁判所での遺言の検認前に封を破いてしまい,その後遺言のなかをみたところ,日付が記載されていなかったという場合,遺言が無効になってしまう可能性があります。
そのため,封筒がなされている遺言書が見つかった場合は,絶対に開けてはいけません。
封がされている「遺言書」がみつかった場合,封はあけずに,すぐ弁護士に相談に行ってください。